技術コラム
第2回 セルフロックの常識 | セルフロックが効く状態とは |
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セルフロックという言葉は、ウォ-ム減速機以外あまり使われない言葉で、この意味するところ(定義とでも言うか)は、 「機械的又は電気的なブレ-キ機構がない状態において,出力側(この場合ウォ-ムホィ-ルの側)から入力軸(ウォ-ム軸) を回転することができない状態にある」ことを言う。 で、ウォ-ム減速機の全てがセルフロックできる訳ではない。一部の仕様を 満足したものだけがセルフロックすることができる。そのまえに何でセルフロックが必要かというと、定義のところでブレ-キ機構 を減速機の使用環境の中で使うことができない場合や、吊物いわゆるウインチなどで降下の時の加速制限効果などや止めた状態を ブレ-キ無しで保持したい・・・など色々ある。 ところで、ウォ-ムのセルフロックとは結構いい加減?・・確実なセルフロックはないと言われる。 その理由は、第一回で記載したウォ-ムの効率の式にある。 |
出力軸(ウォームホィール)からウォームを回す時の伝達効率を計算する次式に、 η=tan(γ-ρ)/tanγ において γ≦ρ の場合、 効率ηは0か負になるためウォ-ムホィ-ルからウォ-ムを回転することができない。 これがセルフロックの理論である。 で、なんで確実でないかというとこの式の中に摩擦が関与するからである。 実際にセルフロック仕様で設計したものをある程度の範囲で製作することはできるが、 ウオ-ムは使用しているうちになじんで摩擦係数が変化したり、あるいは回転速度によって噛み合い歯面の滑り速度が変化すると 摩擦係数も変化する。・・ということでなかなか確実なセルフロックというのはありえない。が他の減速機にないウォ-ム減速機の 最大の特徴でもある。 以上 次回に続く |
第三回 セルフロックの境界
セルフロックの効く境界はどこにあるのか考えてみる、又確実に効くところがあるのか。前回記載したように、 理論的にセルフロックするのは、γ≦ρ の場合である。ウォ-ムの進み角γより摩擦角ρが大きくなったときである。
で摩擦角は、 ρ=tan-1(μ) で求められる。μは摩擦係数である。動的(ウォ-ムが動いているとき)には 特定しにくいが、静止しているときにはBS規格、経験値などから一定の条件の下に求めることができる。 (摩擦係数表は下段右枠内参照。) BS規格(イギリス)では、μ=0.135 をとる。 ただし、ウォ-ムは肌焼入れ後研削したもので、ウォ-ムホィ-ルは りん青銅という組み合わせの時である。この値を前出の式に代入すると、 ρ=tan-1(0.135)=7.688゜ これより小さい進み角のウォ-ムを設計すればセルフロックは効くことになる。 |
ただし、ウォ-ムを使っていると歯面のなじみが進み摩擦係数がこれより小さくなる。 このためにメ-カ-によってセルフロックの設計仕様が異なる。例えば、なじみを考慮してμ=0.1で設計すると、 ρ=tan-1(0.1)=5.710゜ になる。 摩擦係数を知ることができれば境界を計算できると考える、 摩擦係数は効率測定して前出の式から逆算することができる。 ただし、どのように設計しても不確定な要素を含んでいるのでメ-カ-から保障されるものではない。 一般的にセルフロックの効果のある減速比は1/40、1/50、1/60であるが、効率の良いウォ-ムでは、1/50,1/60ぐらいになる。 最近では舞台装置、ホ-ムエレベ-タなど吊物関係では、あまりセルフロックの効果を期待されない。 それよりもむしろ効率を要求される、特に起動効率・・・・。 ウォ-ムの特色を生かした設計がされないのは少しさびしい気がするがこれも時代の流れか、残るはカム、インデックスの駆動源 としてのみか・・・ 次回は、ウォ-ムの起動効率 |
第四回 動かない減速機
第五回 最強の歯形-その1
歯形の話の前にウォ-ム歯車の形態の分類と性能について考えてみる。 ウォ-ム歯車は、大きく分けると円筒形と鼓形に分けることができるがさらに詳細に分けると下図のようになる。ウォ-ムの形状が
円筒か鼓形かで円筒ウォ-ム、鼓形ウォ-ムと呼んでいるのが慣例である。
一般的に、円筒ウォ-ムより鼓形ウォ-ムの方が性能がはるかに高いと言うのが常識である。しかし、同じ鼓形と呼ぶ図2と図4では 性能が大きく違うことをご存知だろうか。また、図1の円筒ウォ-ムより図4の鼓形ウォ-ムの性能が一部の能力を除いては同等以下
であることを知る人は少ない。
今回は、それぞれのウォ-ムの特徴と性能の比較についてお話しする。ただし、図3はほとんど使用例がないので省略する。
図1 円筒ウォ-ムと鼓形ホィ-ル | 図2 鼓形ウォ-ムと鼓形ホィ-ル | 図3 円筒ウォ-ムと円筒ホィ-ル | 図4 鼓形ウォ-ムと円筒ホィ-ル |
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図1の円筒ウォ-ムと図2のの鼓形ウォ-ムについて比較して見ると、鼓形は 噛み合い率及び歯面の相対曲率半径が大きいので伝達トルクが一般的な円筒ウォ-ムの2倍から4倍程度ある。又、同時接触線が滑り
方向に対して立っているので歯面の潤滑性がよく効率が良いとされている。理論的にはそうであるが、円筒ウォ-ムを鏡面加工した ものと比べるとほとんど差は無い。
また、起動効率においては円筒ウォ-ムの方が効率が良い。鼓形のウイ-クポイントである。理由は単純で、ウォ-ム軸の径が端部で 大きくなるため進み角γが小さくなりその結果摩擦係数が同じであれば効率が低くなる、このために起動するためのモ-タが大きくなり
コスト高となる。 次に、図4の鼓形ウォ-ムの特徴であるが、このウォ-ムは図1の円筒ウォ-ムを丁度ひっくり返したものであることが図からわかる。 円筒ウォ-ムを円筒ホィ-ルとし、鼓形ホィ-ルを鼓形ウォ-ムに置き換えたものである。なぜこのような形にしているのかは、製作性
の問題とだけしておく。
このウォ-ムは噛み合い率は多いが、歯当り面積が極端に小さく接触圧が大きくなるので伝達能力は、円筒ウォ-ムに比べて同等か あるいは低い。特に高速回転ではよくない。起動効率も悪いがランニング効率も低い。ただし、低速回転やセルフロックを要求される
用途には向いている。又、噛み合い率が高いので静的な強度が円筒ウォ-ムに比べて優れている。
以上に述べたように、全ての面で鼓形ウォ-ムが優れているわけではない。鼓形の性能を出すには、鼓形ウォ-ムと同形のボブを製作 して創成歯切りを行う必要がある。(舞ツ-ルなどで歯切りされた鼓形ホィ-ルでは歯当りが小さく能力が低い)そして、この工具の
製作が困難であるのと同時に工具寿命が短いため非常にコストが高くなる。このような難しいウォ-ムよりも製作性の良い円筒ウォ-ム の能力を上げることを考えれば良いのではないか。
次回は、"最強の歯形-その2"